[CAMMフォーラム発信BusinessResearch  1998.6  1/2]

左写真:
1997年夏、韓国で開催されたZMPC国際会議にて。右は宮本研究室一期生の高羽洋充現准教授。

 

 私自身、まだまだ新しい学問、生き方に挑戦する気持ちも強く、研究観を纏める年ではない。しかし、折角の機会でもあり、鈴鹿高専から東北大学への編入一期生に始まり、東北大学(学生時代)、名古屋大学(助手時代)、京都大学(助教授時代)、そして再び東北大学(教授時代)と種々の場所を巡り、さらに約18年の触媒分野実験研究の後、コンピュータケミストリーに全てを賭ける転換をするなど多様な試行錯誤に基づいて体得した自分なりの考え方を紹介させて頂きたい。

 


 

 

 

 研究には激しい競争のイメージがあるが、むしろ、如何に競争をしないかが重要と考えている。競争により互いを高いレベルに引き上げる効果はあるが、むしろその中でどのように独自領域を創るか、世界中の誰にも代えられない独自性のある研究者を目指す視点が肝要である。

 

 

 

 

 

  人間の知恵というのは、相当優秀な人でも、時間的、空間的にかなり限られた範囲しか覆えない。特に、現在、目の前に有望な対象があるときに、たとえこれが禁断の実とわかっていてもそれを採らないことは難しい。研究テーマでも、他の研究者が先にとったテーマよりも、最後に止むを得ず残ったテーマの方が案外将来性ある重要テーマに繋がることが多い。自分自身でも、環境触媒やコンピュータケミストリーに出会ったのはそのような契機からである。ただ、必要なのは、そのテーマにもつ意味をよく考えて、そこに潜む歴史的、学問的、社会的な意義をしっかり捉え、精一杯の努力を傾注することだけである。

 

 

 

 

 

  研究に携わると、最初は他に研究例があったとしても、いずれ未踏の領域に辿り着く。その時の対応が、研究者としての成否を分ける。そこれで、不安になって先に進めないようなら、もう少し修行が必要と思う。そこで、自分が新しい道、新しい領域を創っているのだ、それが将来大きく広がるのだ、という感慨、緊張感、責任感、誇り、喜びを楽しむことを若い研究者には是非覚えて欲しい。物質的に豊かになり、人生に大きな夢を抱けなくなったと言われる今日の先進国社会においても、研究にはまだ全くの未開領域が多く残され、上のような達成感、充実感、生き甲斐を感じ取ることができよう。

 

 

 

 

 

 

  大学の教官をしていて驚くことは、いわゆる成績のよい学生の多くが、保守的で、いかに先を見る目がないかということである。考えてみれば、研究面だけでなく大きな成果を挙げている人の中には、意外に、回り道をした人、要領の悪い人、遊んでいた人も多いのではないか。成績の悪い人は、過去に頼るべきものもなく、研究に頑張らなければとの気持ちが強い。それだけ、新しい研究を創出する素地ができているものと考えて研究室を運営している。幸い、そのような学生が大活躍している。

 

 

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